Saint Seiya  > 猫と獅子と絶対零度−家族が増えました−

3. 遅ればせながら思春期です
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「お願い、やめて。それ以上、しないで…」
 泣いて懇願しながら逃れようとするサガの寝巻きを乱暴に剥ぎ取り、投げ捨てる。自らの下に組み敷いた体勢を保ちながら、彼の薄いくちびるを強引に奪う。
「ん、ん―――ッ!!」
 堪能なテクニックなど、持ち合わせていない。力任せにねじ込んだ舌で、くちゅくちゅと淫猥な響きを伴いながら咥内をかき混ぜる。せめてもの抵抗とばかりに身をよじり、サガは顔を背けようとする。けれども、敵わない。なされるがまま、次第に欲望の渦へと飲まれてゆく。
「やっと大人しくなったか…」
 呼吸ができないほどの激しいキスからようやく開放され、サガはげほげほと苦しそうに咳き込んでいる。無駄だと悟ったのか、これ以上抵抗するつもりはないようだ。それとも、過去に対する罪悪感だろうか。ぽろぽろと涙をこぼしながら、悔悟と悲哀が織り交ざった瞳でこちらを見上げるばかり。
 “彼女”の存在が、温もりが愛おしい。子どもの頃からずっとずっと憧れ続けてきた貴方が、こうして私の腕の中にいるなんて―――。
「!? な、何を…!?」
 がば、とサガの両脚を割り開いた。ほっそりと長く伸びた脚の付け根から、するりと純白のパンティを取り払う。未だ誰も踏み込んでいないと思われる花園は、既に潤沢な蜜をたくわえている。ピンク色の淫豆をぷっくりと浮かび上がらせながら、今か今かと私をいざなう。
「!! ひ――ッ」
 吸い寄せられるように股間に顔を寄せ、じゅるじゅるとわざとらしく音を立てて溢れ出る液体をすする。少し上に目線をやると、ちらと見える胸部に膨らみはない。しかし、口の中に広がるものは紛れもなく“女の味”だ。
「あ、あ…だめ、そんな、ところ…舐めない、で…っ」
 もっとも大切な部分を守る茂みは、輝く青銀の髪と同じ色。ねっとりとした滴を塗りたくるように、薄いそれを掻き分けながらちろちろと執拗に舌を這わせる。時々軽く吸ってやると、サガは言葉にならない声を発しながら身体をひくつかせる。そして、より大きさを増した中心部のいやらしい突起を、指先できゅっと強くつまむ。
「いッ、いやあああッ……い、やあああああ…ッ!!」
 次の瞬間、サガは絶叫とともに全身を激しく痙攣させた。豊かな髪を振り乱し、つま先をピンと伸ばしている。頂点に達した証だ。
「言ってくれ、サガ。『欲しい』って、素直に言ってくれないか」
「……」
 喋る気力も失せたのだろうか。涙と涎をだらしなく垂れ流したまま、サガは小さく首を横に振った。耳元で囁く私には目線を向けようともせず、力なく投げ出された裸体を小刻みに震わせている。
 これが本当に、あのサガだろうか。『神のような』と賞賛された、清らかな風貌とは似ても似つかない。とても人間らしくて、そそる姿だ。
 一度だって自覚したことのない、内に秘められた激しい感情が押し上がってくる。これ以上は、抑えられそうにない。
「――――――――――!!」
 ずぶり、と若い猛りでサガを貫いた。目標を定めたら、一瞬だった。果てたばかりの芯部はぐちゅぐちゅに濡れそぼり、あっけないほど容易く巨大な幹を受け入れた。口をぱくぱくさせているが、声はない。先ほどの絶叫で、喉が瞑れてしまっている。
 結合は解かずにサガを胸元に収め、掻き抱く。欲求の赴くまま、一心不乱に腰を打ち付けた。ぱあん、ぱあん、と肉がぶつかりあう度に頼りない上半身が宙に浮き、落ちてくる反動でより深く膣内に刃が突き刺さる。
 ああ、サガ。私は、貴方が好きだ。どうしようもなく愛してしまった。こんなに、こんなに好きでたまらないのに、貴方は未だに子ども扱いするのだろうか。
「…、め、アイオリア…」
 ―――アイオリア、だと!?
 違うぞ、サガ。私はアイオリアではない。私は―――なっ、バカな…まさ…か…っ!?

 ―――――ガバッ!!

 時刻は深夜。日付けが変わる前に規則正しく就寝したカミュが、唐突に両眼を見開いて飛び起きた。あまりにもリアルで卑猥な夢に、胸の鼓動が速くなる。
「はあ、はあ…。な、何だったのだ、今のは…」
 恐る恐る下半身に手を伸ばしてみる。嫌な予感が的中していた。身につけている下穿きには、白く粘度の高い液体がべっとりと付着している。二十歳にもなって夢精とは、情けない。はあ、と大きなため息を吐いてうな垂れたカミュは、そろそろとベッドから抜け出した。
 同じベッドの隣には、ミロがすうすうと気持ち良さそうな寝息を立てて熟睡している。何があっても勘付かれるわけにはいかない。彼は鋭い嗅覚の持ち主だ。
 秘密裏に着替えを済ませたカミュは、再びベッドに戻った。幸いにも、ミロが起きる気配はない。聖闘士にとって、体調管理も重要な仕事のひとつと言える。だから、寝不足は良くない。すぐにもう一度寝直そうと試みる。
 …そうだ、クールだ。クールになるのだ。あれは夢なのだ。サガの裸は、想像以上に儚さを帯びていた。けれども、青白く透ける肌は見た目を裏切り、とても感度が良かった。児戯に等しい私の愛撫にも、余すところなく応えてくれて―――。
「眠れんっ!!」
 再びがば、と起き上がる。枕を抱きしめ「カミュ…」と言いながらもぞもぞと動くミロに一瞬ビクリとしたものの、それが単に寝言と寝返りであるとわかり、ほぅ、と胸を撫で下ろす。
 サガのあられもない姿が、カミュの脳裏で忠実に再現される。眠ろうとすればするほど、現実味を増してゆく一方だ。こうなっては、二度寝どころの話ではない。どくん、どくん、と再び胸が高鳴り始めてしまう。
 …落ち着け、クールだ。冷静に考えてみるのだ。まず、根本がおかしいではないか。どんなに美しくとも、サガは男だ。性転換などありえない話なのに、何故あんな夢を見たのか。まさか、私はそういう目でサガを見ているとでも言うのか? いや違う、違うんだ。私はサガをそんな風に思った事は一度もない…はずだ。彼はアイオロス以外の者がおいそれと手を出して良い人間ではない。サガはあくまで憧れであり目標であり、高嶺の花なのだ。噂では“元”教皇もたいそうご執心だったそうだが、あのお方だけは特別だ。うん? ちょっと待て。サガは「アイオリア」と言っていたな。もしや、本当にそういう関係なのか? アイオロスではなかったのか―――!?

***

 ごりごりごりごり…。
 ごりごりごりごり…。

「う、ん…煩い、なァ…」
 外がうっすらと白み始める明け方、ミロは継続的に響く雑音で目を覚ました。隣で眠っているであろうカミュを抱きしめようと腕を伸ばすが、そこは既にもぬけの殻。がっかりすると同時に、雑音が台所のほうから聞こえてくることに気付く。
「カミュ〜」
 台所で作業をしている人物はもちろん、宮の主だ。ごしごしと両目を擦りながら、ミロはピンと背筋の伸びた後ろ姿に声をかける。

 ごりごりごりごり…。
 ごりごりごりごり…。

 ミロが呼んでも、カミュはいっこうに振り向かない。よほど楽しいのだろうか、握ったハンドルを黙々と回し続けている。弟子たちに渾身の手料理を振る舞うべく導入したシステムキッチンには、削った氷をこんもりと盛った器がいくつも並んでいる。
 眠りを妨げた元凶は、かき氷をつくる音だった。カミュの拘りなのかは解らないが、少し古臭い手動式だ。
 ずいぶん長い間つくり続けていたことは、量を見れば一目瞭然である。にも関わらず、全ての氷が見事なまでにサラサラの状態を保っている。即ち、材料は自前ということだ。流石カミュ、水と氷の魔術師と謳われるだけのことはある―――が。
「カ〜ミュ〜!!」
「!? わ! ななな、なんだっ!?」
 あまりにも気付かないカミュに痺れを切らし、ミロが後ろから抱きついた。気配を消して近づいたわけではない。いつもなら、たとえ振り向かずとも小宇宙で気付くはずなのに。こんなに慌てて、一体何があったのだろうか。
「なんだ、じゃないよ。おはよ、カミュ」
「え、ああ、もう、そんな時間か…」
「まだ早いけどさ。そんなことより、この大量のかき氷は何?」
「いや、まあ、私にも色々あってな…」
 本当に色々ありすぎた。落ち着けと自身に言い聞かせたところで、興奮はまったく冷めなかった。目を閉じればサガの乱れた姿を思い出し、悶々とした。下腹部にじんわりと熱さえ帯び始めた。切羽詰まった末に心を空っぽにしようと弾き出した結論が、無心でかき氷をつくり続けることだった。単純作業は、思いのほか夢中になれるものだ。
 ふうん、とミロは訝しげな表情をしている。こんなこと、悟られてたまるものか。
「そうだ、ミロ。かき氷は食べたくないか?」
「こんなにたくさん? 味もないのに嫌だよ?」
 キリ、と気を取り直して向き直ったカミュが、あたかも平然を装って話題を掏り替える。もうすぐ訪れる夏に向けて準備したものは、何もかき氷器だけではない。
「シロップならそこの戸棚に色々ある。余った氷は捨てるなり何なりしてくれ」
「へー、準備がいいな。それじゃあ」
 カミュが指差した大きめの戸棚を開けると、赤、青、緑、と数種類のシロップが入っている。身体に悪そうな色だと思わなくもないが、ミロは健康マニアではない。好みの味はあるかな、と気にせずに選び始める。
「あった、これこれ!」
 ミロが手に取ったものは、チューブ型のコンデンスミルクだ。器のひとつを手に取り、その上からチューブの先を下に向けてぎゅうっと握る。搾り出された白い液体はとろとろと流れながら氷の山を覆い、徐々に内部へと染み渡ってゆく。
 白く、とろりとした液体。色と言い粘度と言い、まるで―――。

『…、め、アイオリア…』
『サガ、オレ、もう…あ、あ、ああ―――ッ!!』
『…ん、くうう…ッ! あ、はあ…中は、あん…! だ、めぇ…』
 慌てて引き抜かれた肉棒の先から、ぴゅっ、ぴゅっ、と生臭い液汁が飛び散る。狙いを定められず無造作に放たれたものが、サガの端正な顔立ちを淫らに穢す。
『アイオリアの、ミルク…美味、し…っ』
 サガは顔に付着した精液を指で掬い、ぺろ、と舌で舐める。逞しい腕に抱かれた身体はくたりと力ない。しかし、うっとりと恍惚に満ちた表情は幸せそうだ。悦んでいるというのか…!?

 ―――まるで“アレ”ではないか。カミュに夢の続きを想像させてしまう。いつの間に配役が入れ替わっているのは、先日の記憶と夢の終わりにサガがその人物の名を呼んだ名残だ。
 せっかく一晩かけて冷静さを取り戻したというのに、一瞬で振り出しに逆戻りである。
「あんこもあったらもっと美味いよな! 俺さ…」
「許さんぞアイオリア!!」
「えっ? ええっ!?」
 サガを手篭めにしたことか、はたまた睡眠不足に対してか。いずれにせよ完全な逆恨みだ。
 少し季節は早いけれど、ひんやりと甘いかき氷はとても美味しい。たっぷりと染みこませたミルクの甘味を堪能していたミロが聞き返す間もないまま、カミュは一目散に宝瓶宮を飛び出した。

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