Saint Seiya > せいんとせいやでドラクエ3をやってみた。 > ナジミの塔〜ロマリア編 |
<<前のページ もどる 次のページ>> |
アリアハンの城下町の西に広がる湖。その中心からやや東寄りにある孤島に、その塔は立っていた。 ナジミの塔の“ナジミ”の意味は忘れられてから久しい。アリアハンの人間にとっては“馴染み”の存在だから、などとふざけた由来を持ち上げる者もいるが、文献に残っていないほど昔に建てられたようだ。 当然、何に使われていたかなど知る由もなく、その内部の構造と塔への往来の困難さから、監獄だったとか、魔法の実験施設だったとか、様々な説が唱えられてはいるが、こちらにもはっきりとした答えはない。 子供の頃のアイオリアは、よくこの湖のほとりで時間をつぶすことが多かった。兄が失踪してから同世代の子供にからかわれるのを避けるためである。 何もせず、目の前を通り過ぎてゆく船や、時間と共に変化する水面の様子を眺めているうちに時は過ぎ、夕刻になると、大抵母が迎えに来る。余計なことは詮索せず、その日の夕食のメニューを教えると、そっとアイオリアの手を繋いで家路ににつくのである。 だが、後ろに気配を感じても自分の名を呼ばれないことがある。そんな時振り返ると、そこにはマリンが立っている。 「男なら、もっと強くなりな」 そう言って額を人差指でチョン、と突いて来るのだった。 そして今、成長したアイオリアもまた同じ場所に佇んでいた。一人になるためではなく、ナジミの塔に挑むためである。 かつて、野盗がこの塔を拠点にし、旅人を襲っていたことがあった。苦労の末、野盗を駆逐することに成功した際、助力した冒険者ギルドがこの塔の所有を報酬として提示してきた。国としてはギルドを信頼していたし、税金を使わずに管理してもらえるわけだからその申し出を快諾した。 それ以来、ナジミの塔は冒険者ギルドの“試練”に使われるようになった。 ギルドとしては、素質のある新人をおさえておくことにより、比較的簡単な依頼を確実にこなしてもらえるようになる。実力がわからない新米冒険者に依頼を振るのは一種のギャンブルのようなものだ。冒険者の方としても、手っ取り早く実力を示せるので、双方にとって都合が良いのだ。 『ナジミの塔への進入路を発見せよ』 これがアイオリアのパーティーに課せられた第一の試練である。 「で、わかったのかな、りあたん」 アイオリアの背後から、少し小馬鹿にしたような声がした。 アイオリアは振り向かず、返答もせずにじっと塔の方を凝視していた。 船で近付こうにも、孤島の周辺には水没している岩場が多数あり、座礁する可能性が高い。ルイーダの酒場で試練経験者に話を聞いても教えてくれるはずもなく、条件として提示された額はとてもじゃないが払える金額ではない。 進入路がわからない上にこのパーティーである。アイオリアの頭は痛かった。 「この程度のこともわからないのか」 相変わらず尊大な態度のもりそばが話しかける。 「わかっているなら、教えてくれ。」 「俺と組みたいなら、これくらい自力で何とかしろ」 別に組みたいなんて一言も言っていない。だが、反論すると痛い目を見ることはこの短時間で身をもって学んでいる。余計な事は言わない。 「もちろん、答えは出ているさ」 そう言うと、アイオリアは剣をはずし、上着を脱ぎ始めた。 「まさかとは思うが、泳いでいくつもりか?」 「ああ、それ以外に方法はないっ!!」 哀れな視線を送るもりそばとデスマスクの方を一切見ず、薄着になったアイオリアは湖へと飛び込んだ。 「…、これが若さかねぇ」 小さくなっていくアイオリアを見ながら、もりそばはため息をつく。 「まあ、いくらあいつでも、気が付けば戻ってくるだろう」 常人ではすでに見えない距離まで移動したアイオリアの姿を、この三人はとらえることができた。 「そろそろ気付くかな?」 「お、泳ぐのをやめたぞ」 「おーおー、見上げてるねぇ」 「まさか、登ろうとか思わねえだろうな?」 塔のある孤島の周辺は断崖絶壁で、これが上陸を困難にしていた。 「あいつ、動かねえぞ?」 「まさか、なんとか登ろうとしてるんじゃねえか?」 「お、諦めて戻り始めたか」 アイオリアはゆっくりともりそば達のもとへ戻って来た。 岸に上がり、アイオリアは三人とは目を合わさずに、そそくさと準備を整える。 本当は充分に身体を乾かしてから上着を着たかったが、とにかくすぐにこの場から立ち去りたかった。 「さて、“それ以外にない”方法が駄目だったわけだが…」 もりそばの意地の悪い言葉を背中に浴びながら、アイオリアは剣を背負った。 その時、後ろで何かが地面に落ちる鈍い音がした。何事かと振り返るアイオリアの足元には、抜け落ちた剣が横たわっていた。 「も、もうだめだ…」 笑いをこらえていたもりそばとデスマスクは思わず吹き出した。 「いくら慌ててたからって、剣を逆に背負ってどうする」 「おまえ、いいな。旅が楽しくなる」 地面に落ちた剣を拾い上げると、アイオリアはそのまま走りだした。 結局、その日は塔へは入れず、アリアハン城下町の北にあるレーベの村に宿を取ることにした。アリアハンの方が近かったのだが、何となく戻りづらさを感じたからだ。 「ほれ、そろそろ機嫌直せ」 宿の一階にある酒場で、もりそばはアイオリアの木製のジョッキに葡萄酒を注いだ。 途中でアイオリアに追いついたもりそばとデスマスクは、村に着くまでの間、機嫌を取ろうとした。やきそばはというと、相変わらず何も言わないままだった。 ただ以外だったのは、やきそばがもりそばの頭を思い切り殴ったことだった。てっきりやきそばはもりそばに逆らわないと思っていたが、その後もりそばがアイオリアをからかわなくなったところを見ると、やきそばの立場の方が上なのだろうか。 その当のやきそばは、酒には口を付けずにジャガイモとベーコンの入ったスープを静かにすすっている。 「もう少し、真面目にできないの?」 「女連れで冒険に出ようとしてた奴に、言われたかねえな」 アイオリアは口に含んだ葡萄酒を、正面に座っていたデスマスクの顔に吹き出した。 「て、てめえ!! きたねえな」 「文句があるなら、もりそばに言ってくれ」 「おう、男前になったじゃねえか、かに」 「おまえの顔にかけてもらったほうがよかったんじゃあねえか。そのだせえ化粧おとしてもらえ」 「ふ、このもりそば様の美的センスについて来れないとは、哀れな蟹だ」 「おうよ、そのセンスとやらが理解できない自分をほめてやりたいね」 「…死ぬか?」 「おまえがか? 手伝ってやろうか」 「もうやめなよ。みっともない」 「元はといえば、おまえが酒を吹き出すから…」 その時、やきそばの方から“圧力”のようなものを感じ取った。もりそば同様素顔がわからない程濃い化粧をしていたが、その眼光が鋭くなっていることに気がついた。 「…やきそば…さんって、もしかして怖い人?」 「ああ、普段はいい奴だが、気をつけろよ」 アイオリアともりそばは小声で話した。 今のところ、やきそばの声を聞いたことは一度もない。もりそばに耳打ちしているところを見るに、声は発せるのであろうが。 「何でやきそばさんはもりそばにしか話さないの?」 「おい、何で俺には“さん”をつけないんだ?」 「聞いてるのはこっち。一応パーティー組んでるんだから、こういうのって良くないと思う」 「真面目だねぇ〜、りあたんは」 「そっちが不真面目過ぎるだけ。」 「あんまり気にすんな。恥ずかしがり屋なだけだから」 果たして本当か? いくら恥ずかしがりだからって、声さえ聞かせないってことがあるのか? もしかして、他人に聞かせられないほどひどい声なのだろうか? だとしたら、一体何が原因で? 「…もしかして、病気なのか?」 「…、は?」 「もしくは、何か恐ろしい目にあって、精神的に大きなダメージをうけたとか」 「あの、りあたん?」 突然アイオリアはもりそばの手を強く握った。 「力になるから」 「はあ?」 そしてやきそばの手もしっかりと握る。 「必ず治るから、自分を、そして俺を信じて」 やきそばは一瞬固まったあと、恥ずかしそうに視線を反らした。 「いや、なんか勘違いしてないか?」 「遠慮することはない。仲間を助けるのはリーダーとして当然だ」 アイオリアは三人の手をテーブルの中心に強引に集め、一番上に自分の手を重ねた。 「オレたちは、一蓮托生だ!!」 熱く語るアイオリアを尻目に、三人は困惑しながらお互いを見つめた。 「…、そうなのか、もりそば?」 「ぜんっぜん違うわ!」 「なら、ホントのところを教えてやれよ」 「だから、ホントに恥ずかしがりなだけだ」 「こりゃあ、思い込みが激しいタイプだな」 呆れる二人とは別に、やきそばはしばらくアイオリアの方を嬉しそうに見つめていた。 宿屋で一泊したアイオリア一行は、レーベの村の東側に広がる草原地帯にいた。 「なんでこんなところで油を売っているんだ?」 「誰のせいだと思っているんだ!」 あくびをしながら質問してくるもりそばに、アイオリアはいらついた口調で応える。 「俺、なんかしたか?」 「あんたらが背負っているものは何だ?」 「俺たちは、遊び人としての尊い使命を背負っている」 「まじめにやれ!!」 もりそばとやきそばは、背中をすっぽりと覆うほどの大きさの“かめのこうら”を背負っている。 宿屋の代金を支払おうとしたアイオリアは、所持金の大部分を失っていることに気が付いた。身に覚えがないアイオリアであったが、のんびりと部屋から出てくる遊び人二人の姿を見て、即座にさとった。 この二人は別室を取っていたため気付くのが遅かった。 「パーティー共有の金を使って何が悪い」 「どう考えても泥棒のやることだよ!」 「泥棒は一人で充分だろう」 「俺はスマートな盗賊だ。泥棒扱いするんじゃねえ」 「いやあ、やきそばがどうしても欲しいっていうもんだから」 「このデスマスク様を無視するんじゃねえ!」 結局、お城に訴えると言い出した宿屋の亭主をなだめ、代金の代わりとして村の周辺で悪さをする“おおがらす”の数を減らしてくれるよう頼まれたのだった。 「あのおやじ、ギルドに依頼する金をけちりやがったか」 「それで済むんだから、仕方ないよ」 そういうわけでここまでやってきたわけだが、肝心のおおがらすは一行を警戒するかのように上空を旋回している。 「あれがそうらしいな」とデスマスク。 「うーん、弓矢を使うしかないか」とアイオリアが答える。 その時、もりそばが不敵な笑みを浮かべた。 「おまえら、このもりそば様がいてよかったな」 そう言うと、唇をすぼめ思いきり口笛を吹いた。すると、おおがらす達は急降下して一行に迫って来た。 「俺の口笛にはモンスターを呼ぶ力があるのだ」 「へえー、なかなかやるね」 素直に感心しているアイオリアの背中を、もりそばが軽く叩いた。 「んじゃ、あとはよろしく」 「え、一緒に戦うんじゃあないの?」 「遊び人は、遊ぶのがお・し・ご・と」 「じゃあ、デスマスクと二人で…」 「盗賊は、盗むのがお・し・ご・と」 そうこうしているうちに、おおがらすはすぐそこまで迫っている。総勢六匹。決して一人で倒せない数ではない。アイオリアは瞬く間に全ての敵を斬り伏せた。 「おお、結構やるじゃないか」 「ほう、ただの子猫ちゃんではなかったか」 やきそばも声は発しないが、興奮した様子で拍手していた。 「ふ、これくらいなんでもないさ」 アイオリアは剣を収めると、何気なく空を見上げた。そこには、さっきの何倍もの数のおおがらすが不気味に旋回している。それだけではない。向こうからは相当数のモンスターがこちらに突進してきている。 「なんだ、この数は!!」 「どうやら、この辺一帯のモンスターを呼んじまったようだ」 恨めしそうに見つめてくるアイオリアに、もりそばが悪びれもせずに言い放つ。 「いやあ、俺ってすごくない?」 「ぜんっっぜんすごくない!!」 こうなったら仕方がない。とことんやるまでだ。アイオリアはそう心に誓うしかなかった。 ―――おかしい。絶対におかしい。 剣を振るいながらアイオリアにはある疑問が浮かんでいた。どうしてモンスターは自分にしか襲いかかってこないんだ? 他の三人は、少し離れたところで無責任に応援している。それどころか、むしろを敷いて酒盛りまでやっている。やきそばはハラハラしている様子でアイオリアともりそばを交互に見ているが、加勢する様子はない。どう見ても隙だらけの彼らに、モンスターの群れはいっこうに向かっていかないのだ。 その時、アイオリアはもりそばが何かを地面にまいているのに気が付いた。 「もりそば、それってもしかして…」 「おお、これか? これはレーベ産の麦酒で…」 「違うっ、反対の手に持ってるやつ」 それは、聖水であった。教会で祝福を受けたその水は、ある程度のモンスターなら近づく事さえできない力を持つ。もりそばは先ほどから惜しげも無くそれを地面にまいていた。 「な、なんて勿体ないことを…」 「若いのにセコいこというな」 「…うおお―――――!!」 あまりに理不尽なできごとに、アイオリアの太刀さばき、体さばきは“なぜか”格段に速くなった。 「ぜえ、はあ……」 辺り一面にはモンスターの変わり果てた姿が広がっていた。 「俺のおかげで強くなれたな、りあたん」 もりそばが肩に手を置くと、アイオリアはそれを鬱陶しそうに振り払い、なにも言わずに歩きだした。 「おいおい、遅い反抗期か?」 「…、解散だ」 「は?」 「もう、あんたらとは組まない」 そういうと、アイオリアは振り向かずに走り出した。 「やれやれ、お子ちゃまだねえ」 苦笑いをするもりそばとデスマスクを尻目に、やきそばが後を追った。アイオリアに追いつくと、道具袋を後ろから掴んだ。 「放してくれ」 アイオリアの言葉にやきそばが首を横に振る。 「あんたらみたいなふざけた連中とは冒険なんてできないよ」 そう言ってアイオリアは強引に振り払おうとした。その時、アイオリアは自分の足元が抜けるような感覚がした―――と、次の瞬間、二人の足元が一気に崩れ出した。 目の前でなすすべもなく落下するやきそばを、アイオリアは咄嗟に掴み、引き寄せ、落ちて行った。 「おおい、生きてるか?」 携帯していたロープで降りてきたもりそばとデスマスクは、やきそばを抱えて倒れているアイオリアを見つけた。 落ちた穴の深さは五、六メートルといったところ。もりそばの声に応えるように二人は体を起こした。 「大丈夫か? 怪我はないか?」 もりそばはいつもとは違う、とても優しい声でやきそばを気遣う。 「咄嗟にかばってくれたんだな、ありがとう」 「い、いや、もりそばこそ大丈夫か? そんな優しい言葉、普段は微塵もかけてくれな…」 ごん、とアイオリアの頭にもりそばの拳が振り下ろされる。 「なんだ、まるでいつもは辛辣に接しているみたいじゃねえか」 「辛辣なんだよ…」 アイオリアがため息混じりで答える。すると、ランタンに明かりを灯したデスマスクが、辺りを見渡して声をあげる。 「こいつぁ、人の手の入ったトンネルだな」 アイオリアも周りを見ると、通路が奥へと延びていた。 「でかした、りあたん。お宝があるかもな」 いつもとは打って変わってやる気のある声でデスマスクは奥へと歩いて行った。 「ああいうタイプが、遺跡で真っ先に罠にかかって死ぬんだよな」 もりそばが憎まれ口をたたく横で、やきそばはアイオリアにぺこりとお辞儀をした。 「お礼のつもりかな?」 言葉を発さないため今一つ心情が読み取れないが、アイオリアは「そういうことにしておこう」と心の中で思った。 その時、やきそばは恥かしそうにアイオリアの前に歩み寄ると、少し背伸びをしてアイオリアの頬にキスをした。この不意打ちにアイオリアは、 「男の人にされてもなぁ…」 とため息をつきながら、デスマスクの後を追った。 人工の洞窟を注意深く進んでいくと、目の前に階段が現れた。 「なにがあるかわからないから、ここはリーダーであるオレが先に行くよ」 「りあたんがリーダーではないことは確かだが、まかせた」 いつも通りの軽口を叩きながら、アイオリアを先頭に進んでいく。思わぬ落下事故で、アイオリアは冷静さを取り戻していた。 階段を登りきると、そこには石造りの建造物の中であることがわかった。目の前にそびえる年季の入った大きな扉を開けると、そこには湖が広がり、対岸にはアリアハン城が確認できた。 「ここが、ナジミの塔…」 いつも目にしてきた塔にたどりつくのにここまで苦労するとは。 「まあ、結果オーライってことで」 「…、つまんね」 デスマスクもここに着くとはわからなかったらしく、愚痴をこぼしている。 「残念だったな、お宝じゃあなくって」 「うるせえよ」 もりそばとデスマスクの口論を背中で聞きながら、アイオリアは決意を新たにしていた。 「ここからが、やっと塔の内部の試練だ」 中編へつづく (書いた人:いいいい) |
<<前のページ もどる 次のページ>>> |