刻さまより/相互記念SS『白い春』(三國無双)

相互記念にリクエストを聞いてくださる、というお言葉に甘えて、図々しくも『受けの死ネタ、しかも病死』という、個人的に最上級の萌えシチュをお願いしてしまいました。「泣いてる」とか「隠し通そうとしてる」とか、いちばんの萌え要素をこんなにもすてきなSSにしていただいて、本気で萌え殺されるんじゃないかと…!イラストのですね、吐血の跡がまた萌えるんです><
このたびは無理なリクエストにお応えいただき、本当にありがとうございました!貴重な貴重な家宝ですv

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* 白い春 *





しんしん、それは音を立てることもなく積もる。


手の平で受けとめるとすぐに融けて。
掴みたくても掴めない、
白くて儚くて冷たい粉雪。


お前みたいだなと笑った。






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「よう、孟徳から書簡預かって来たぞ。」
「あ…」


司馬懿の部屋は
小さい窓がこじんまりとあるだけの元々薄暗い部屋だが
この日は一段と暗かった。


あいつらしき人影はぼんやり見えるものの、
姿勢だとか、勿論表情も掴めない。


「そ、そこに置いてさっさとご退出くだされ」
「?調子でも悪いのか?」

「違います」
「…じゃあ窓くらい開けろ。もう昼過ぎだ。」
「待っ」



俺は司馬懿が居る方向と逆の窓側へ向かうと、
窓を覆ってある薄布を勢いよく端へと引いた。


司馬懿は日の光が眠りの妨げになるらしく、
窓の傍に薄布を
糸と笠木で器用に取りつけていた。

俺なぞ日の光が頃良い目覚ましになっている位だから
変わったことをするんだなと
初めて聞いた時には思ったものだ。



「ほら。今日は良い天気だぞ、少し寒いがな」



後ろを振り返ろうとしたその時、

俺の右目はひんやりしたもので覆われ真っ暗になった。



相互記念SS『白い春』/挿絵



「…っ」


「司馬懿?何も見えないんだが」
「…馬鹿め…が、そうしているのです」


「…何かあったのか」


司馬懿の声は、掠れ、上ずっていた。
泣いている…のか?

「…このまま導いて差し上げます。どうかお引き取りを」
「阿呆、そんなこと出来るか!!」


目を覆って居たもの、
司馬懿の冷たい手を掴むとそれを避けた。



「!」
「!どうした、それ…」


司馬懿は夜着に、羽織を重ねて着ていたが
夜着に紅い斑点が落ちているのが見えた。



「…返り血ですよ、
  !ゴホ、ゴホッ!!!!」

「司馬懿!!!!」
「っ、はぁはぁ…何でも、ござ、ゴホッ!!!」

咄嗟に司馬懿を肩に持たれかけさせ、
腰を下ろして背中をさする。


「はぁ…はぁ、貴方…だけには、見せたく…なか…ったのに」
「馬鹿、いいから喋るな!!!」


苦しそうに肩で息をしている。

体は女のように軽くて、それでいて恐ろしく冷たい。
その体勢のまま抱え寝所まで運んだ。




重湯を飲ませ、口に付いた朱を撫でるようにふき取る。

司馬懿は目を細めてそれを眺めながら
しばらくすると瞳を閉じて眠ったようだった。




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司馬懿は、少し前から胸が悪かったらしい。




「どうして言わなかった」
「…ふふ、旬イク殿にしか話していませんが」

「兎に角これから安静にしてろ、良いな。
  事情を伏せて仕事は何とかしてやるから。
  じゃあ俺は行くぞ。」


布団をぽんぽんっと叩き、何とか作り笑いを決め込んで
立ち上がり背をむけようとした時だった。


「嫌です」

「え?」

「将軍に1つご質問を。
  もし私の病が、流行病だとしたらどうします?
  介抱して下さっている内にうつってしまわれたかもしれません」

「…はぁ…。何言ってる」


俺は再び椅子に腰を下ろした。
床に伏せって気弱になってんだな、と
何だか司馬懿が可愛らしく思えた。


「構わん、治せば済むことだ。」

「…死の病だとしたら?」

「不吉なこと言うなよ。
  大丈夫だ、安静にしていればすぐ治る…そんな顔するな」

「良いから答えてください」


「ったく…子供かお前は。
  死に至る流行病でも、俺はさっきと同じ行動を取った。」
「…何故ですか」






「お前が苦しんでいる姿を見ていて、
 考える余地なんて無いだろう。」




「っ…私がどんな心持ちか知らないで…!」
「!?し、司馬懿!?」



司馬懿は起き上がって俺の襟元を掴むと
至近距離まで強引に自分の方へ引き寄せた。

鼻と鼻の頭が当たる。



「誰にでもそう仰る癖に」
「…」
「!ん…」




気がつくと俺は
司馬懿の顎を捕えて、
薄くて冷たい唇に自分の唇を重ねていた。


前から司馬懿のことを好いてはいたが
伝える気は毛頭なかったと言うのに。

今のでさすがに気付かれちまっただろうな…




でも、こいつの瞳に映る色が寂しくて
どうしてもほっとけなかった。




「!悪い////
  お前が…変なこと言うからだぞ」
「…////」


顔を見て居られず、
その華奢な体を静かに抱き締めた。

司馬懿は驚いていたようだったが
俺の肩へ躊躇いがちに手を回した。

いや、俺だって驚いてるんだぞ。




「早く治せよ、治ったら何でも食いたいもん食わせてやるから。」

「…っ、ふふ、はい…
  元譲…あいして…いま…」




確かに肩へ添えられていた司馬懿の腕が
力なく下へずり落ちた。





「?司馬懿?」



司馬懿の、長い睫毛をたたえた瞳の端から
すっと一筋の涙が零れおちる。


綺麗に、微笑んだまま
あいつがその目を覚ますことは、無かった。




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